の部屋にて。



   【右手の体温】





「うわーんエドー!!」
「えっ? ……あ、!?///」
 突然の事態にエドワードは青くなったり赤くなったりした。
 久しく会ってなかった恋人のが、顔を合わせた途端、すごい勢いで抱き着いてきたのだ。

 その様子を隣でまじまじと眺めていたアルフォンスは、口笛を吹きそうな仕草でからかう。
「わぁっ、兄さん、良かったねぇ〜♪」
「な、なんだよアル!///」
「なにさ〜」

「……なくなったのかと……」
 の弱い呟きに、兄弟のはしゃぎ合いはぴたりと止まった。
 なんだか真面目そうな気配だ。巷のアベックがするような甘え行為ではないらしい。
「…………右手、が、また……」
「――――?」

「んーしょうがないなー」
「アル?」
「ボクちょっと外に出かけてるよ。…散歩にね」
 弟の微妙に曰くありげな言いまわしにエドは一呼吸後にピンときた。要するにその間を宥めろというのだ。
「え、あ、わ、わかった。じゃああとで」
さんを襲っちゃダメだからね、兄さん?」
「するかボケーッ!!」
 エドの叫び声が辺りにこだまする。
 わんわんと響く鎧ごとそれを聞きながら、アルはその場を後にしたのだった。



       *       *       *



、大丈夫か?」
「う、うん、なんとか…」

 勝手ながら部屋の中に入らせてもらい、エドはをソファーに座らせた。自分もその隣に座り、背中をさすってやる。図らずも彼女が先程口にしたのと同じ右手だ。機械鎧はもちろん硬いのだが、上から手袋をしているし、痛いことはないだろう。

「どうしたんだ? 何か嫌な噂でも聞いたのか?」
「ううん」
「……じゃ、何かされたとか、言われたとか」
「そんなんじゃないの」
 思いつく可能性を全て列挙してみたのだが当たらない。だから話が進まない。
 どうしたらいいのか判らなくなり、エドがやきもきし始めた頃、はぽそりと呟いた。

「夢を見たの」

「……ゆめぇ? なんだ、夢か」
「なんだとは何よ! こっちは真剣なんだから!」
 居心地悪そうにしながらも向きになる恋人に、エドは音にならない溜め息をついた。左手で制しながらも先を促す。
「あーわかった! で、夢がどうしたって?」
「うん。あのねっ」
 勢いがついたようには話し始めた。ずっと言いたかったのかもしれない。

「私は建物の中にいるの。それでエド達は外にいて。……すごく強そうな人たちと戦っているのよ。黒づくめの」
 エドは何か言おうとしたが結局黙っていた。がホムンクルスの存在を知っている筈が無い。きっと心の不安か何かが黒という色になったのだろう。
「なんとかしてエド達の方へ行こうとしても無駄なの。ドアも窓も、全然開かないし、壊せないし割れないし。椅子とか投げたのに」
「危ないってわかっている所へ自ら行くなって……。しかも相当暴れたな」
 今度は迷わずコメントした。

「そうこうしている間に、アルが倒れちゃって、エドも……右腕を壊されて」
「…………」

「どうしよう、このままじゃ二人とも死んじゃう、って思った瞬間に目が覚めた」
…――――」
「エド、本当に大丈夫なんだよね? 実は機械鎧を壊してたとか、そんなのないよね?」
「ないよ」
 今は。内心エドはこう付け足した。

「まぁ、確かにスカーに一回壊されたこともあるけれど、そう何回もやられてたまっか!」
「……あは。そうだよね」
 少しぎこちなくはあったがはやっと笑った。エドもほっとする。

「エド」
「ん? どうした」
「…遅くなったけど、お帰りっ!」


 愛しくて。
 間近で見るの笑顔に、不意にエドは衝動を抑えられなくなった。固く抱きしめ、口付ける。

……」
「んっ! え、エド?///」
「会いたかった」
「あ……」

 頬、目蓋、…そして唇。
 絶え間ないキスに、の動きも段々鈍くなる。ゆっくりとエドの首の後ろに腕を回した。
「私も会いたかったよ」

 お互いの息遣いだけが聴こえる。
 一秒前よりも甘く、一瞬前よりも強く。
 あともう少しすれば、相手の鼓動さえわかるかもしれない。
、好きだ」
「…え、どっ」

 エドは深い口付けの後、静かにをソファーの上に押し倒した。はいっそう赤くなったが、抵抗はしない。エドは彼女の首筋に顔を近づけようとした。


 だが。
《ピンポーン》
「ぶふっ」
「ひゃぁっ! …ちょ、エドってば、耳元で息は吹きかけないでよ!/////」

「兄さん、さーん? あれ、おかしいな、どっかに出掛けちゃったのかな……」
 外から聞こえたのは、散歩から戻って来たアルの声だった。
「あ。あー待って、アル! 居るから!」

「……アル……。わざとじゃないだろうな」
 思わず不機嫌な声になる兄。それを見て苦笑しつつ、髪を直していたはふと口を開いた。
「ねっ」
「なんだよ」

「エドってあったかいね!」
「は?」

「右腕もね、大好きだよ。元に戻っても、戻らなくても。だから――無理はしないでね!」
「……。あっ、当たり前だろ!?///」

 はにこりと笑うとアルを中に招き入れるために行ってしまう。
「お待たせ、アル! さっきはいきなりごめんね」
「ううんいいよ。兄さんに変なことされなかったー?」
「さっ…されてないよー///」
「え、なんで赤くなってるの?」
 向こうでは何やら賑やかな様子になっている。ソファーに座り直したエドは、それを聞きながらも、無意識に右腕をさすっていた。


『右腕もね、大好きだよ』
「だいすきだよ、か。それなら機械鎧も悪くな……いやいや……でも……」
 ぶつぶつ呟きながら。










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  ★あとがき★
  きゃ。今までにないくらいの甘々です(滅)。
  かなり照れつつ書きました。でも楽しかった♪

  今回は最初のヒロインが抱きつくシーンから生まれました。
  最初はもう少しわめいていたイメージがあったんだけどなぁ。これも愛でしょうか(謎&欧)

  ちなみにタイトルはハガレンオンリーサイトを作ろうか、
  と考えていたときのサイト名の候補です。結局作りませんでしたけど(笑)

  ここまで読んでくださってありがとうございます!
  ゆたか   2005/02/07

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