【婚約者 前編】





 あの後、皆で連れ立って向かった先にいたのは、超美形な眞魔国の王佐だった。
 ちょっと突っ走るところがありそうだったけれど、なかなかいい人みたいで良かった。城を飛び出して来てしまった事も、何とか許して貰えたしね♪
 それにしても、自分の出生の秘密を知ったときの陛下は、そりゃあ見物だったな。
 だって、本当に精一杯に驚きなさってたんだもん(苦笑)
 そして私達は今、ある小屋の外に居る。外に。



       *       *       *



「どうかしたの?」
 私が声を掛けると、先に外に出ていたコンラートと陛下はこちらを振り向いた。陛下が口を開いた。
「なんだ、さんか。別になんもないよ?」
「……そうですか? あ、そうだ、この村の子供たちを見かけ……」
「あっそーだおれわからない事があるんだった! ギュンターに聞いてみよう!」
 そう叫ぶなり行ってしまう陛下を、私は半ば呆れながら眺めていた。
「見かけ……たんですね?」
「なんとも言えませんね」
「何かあったの?」
「ノーコメントです」
 コンラートは苦笑しつつそう告げると、逆に質問してきた。

「子供たちに用があったのか?」
「うん。今度ここに来る約束してたの。当分来れそうにないと思ってたから諦めてたんだけど」
「約束?」
「そ。一緒に遊ぼうってね」
 そこでコンラートは何故か考え込む素振りをした。
 意外な質問をしてきた。

「もしかして君が『よく遊んでくれるお姉さん』?」

「……そうだと思うけど。あの子達、私の前では『おせっかい女』とか呼ぶんだけどなー」
 変なの。どうせならいつもお姉さんって呼んでくれないかな。
 そこまで考えて、私はあることに気づいた。
 彼はなぜそんなことがわかったのだろう?

「もしかして、コンラートが、野球を教えてたの!?」

「うん」
「そっかー! いっつも誰だろうって思ってたんだ。あのとき一緒に地球へ行った人か、他の誰かが全く新しくこの遊びを考え出したのかなって。ありがとう」
「……どうして、礼を?」
「あの子達が遊んじゃいけない理由はないから」
 コンラートは変な顔をした。驚いたような、考え込むような、そんな表情に。

「そう言えば、あの子達には英語読みの名前を教えてたんだね。私もコンラッドって呼んでいい?」
「……もちろん」
「よかった! じゃ、戻ろっか、コンラッド♪」
 何だか嬉しくなって、私は先に歩き出した。すごく嬉しかった。


「――不思議な女性だな」
 かすかに言葉の羅列が聞こえた気がしたけど、すぐに忘れてしまった。



       *       *       *



 翌日は、陛下の受難に始まった。
 と言っても実際は馬で移動するだけだったんだけど。陛下の世界では通常初等教育でさえ乗馬の練習をしないから、いきなりすぐ馬に乗れなんて言われたら……ねえ?
 地球にいる五年間、一回も乗馬しなかったから腕が少しなまって。私もちょっと覚えがある。
 お尻が痛い。

「陛下ぁー、がんばってください〜」
「うう……そんな気の抜けるような応援はやめて」
「これは自前です〜」

 なんて、微力ながら励まし続けて――その間コンラッドは笑いを噛み殺していた――、やっと城下町に辿り着いた。

 ここに来るまでに陛下が頑張って乗りこなそうとしていた駿馬・アオは淑女らしく(?)進んでいた。ついさっき主人を二度も落として暴れていたなんて、露ほども疑わせない馬っぷりだ。

「あ、ども。あ、えーと。あ、ちぃース。あ、これはご丁寧に」

 私は列の後ろの方にいたから見えなかったけど、こんなセリフは聞こえた。聞き間違えようもなく、陛下のものだ。……こんなに頭を低くする必要はないと思うけど、たとえ短い間でも、より陛下を知っている身としては、納得してしまうところがあった。なんか、陛下らしくて微笑ましい。

 でも、呑気に笑っていられるのも、今のうちだった。
 陛下が通りで女の子に貰った花束が、アオの耳に触れてしまうまで。
「ヒヒーン!」
「え!? うそ!」
 一人と一頭が黒い疾風となって、城門の方へと突っ込んでいく。でもモチロン、…出来ることなら最後まで一人と一頭のままでいて欲しかった…!

「ま、待ってー陛下っ! むしろアオ!!」
「陛下ーっ、手綱っ、手綱をーっ」

 陛下に敬礼しようと並んでいた兵士たちの横列すらするりと通り過ぎる。扉の閉まったままの正面入り口まで残り僅かだ。
 危ない、激突する……。
「あれ?」
 突然駿馬は立ち止まった。一瞬陛下が振り落とされる、と思ったけれどそれもなく(意外)、おとなしくなった。
 ただ、それに安心したらしい陛下は、結局自分から落ちゃったけれど。

「陛下ーっ」
「大丈夫ですかぁ!?」

 皆で呼びかけながら馬から降りると、歩いて近づこうとする。でも3人よりも早く到着した人物が、2人いた。
「……陛下……これが?」
 黒に近い濃灰色の髪と青い瞳の、渋い感じの軍人さんと、
「それが新魔王だというのか!?」
 金髪碧眼の、神経質そうなやっぱり軍人さんと。

 どちらもすごい美形さんだわー…。

 最近気がつけば自分の周りに美男子がいる感じがする。思わぬ再会に気を取られててあまり考えなかったけど(ごめんなさい)、ギュンターさんもコンラッドも、目の前の新キャラ2人を含めて、皆それぞれ違うタイプのイイ男ぶりだ。あ、もちろん陛下もね♪ どっちかというと、可愛いって感じだけど。

 ただ、今初めて出会った2人は、何だか陛下に対して非友好的だった。
「グウェンダル……いえ兄上、あんなやつの連れてきた素性も知れない人間を、王として迎え入れるおつもりですか!?」
 金髪の軍人さんが叫んだ。なぜか「あんなやつ」のところでコンラッドを鋭く睨む。
 グウェンダル……? どっかで聞いたような。最近このパターンばかりで嫌になっちゃう。
 確か前の経験では、ウルリーケ様に教えられてたのを思い出したのよね。…ん? ウルリーケ様、という言葉に引っかかりが。もしかしてビンゴ?

「……うっそ!? に、似てねェーっ」
「そりゃ、もうしわけない」

 考え込んでいる私の耳に、不意に声が割り込んできた。どうやらぼーっとしている内に話が進んでしまったらしい。コンラッドは言う。
「それぞれ父親が違うんだよ。ま、似てようが似てまいが、血の繋がりを無効にすることはできない。グウェンダルは俺の兄で、ヴォルフラムは弟です。おそらく二人はそんなこと、口にしたくもないだろうけど」
「あ、なるほど」
 やっと思い出した! 前魔王陛下の三兄弟。上からフォンヴォルテール卿グウェンダル、ウェラー卿コンラート、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラム。

「ふー、謎が解けてすっきりした♪」
「ん…? お前は誰だ、女」

 ヴォルフラム閣下は私の存在にやっと気づいたのか、訝しげな視線を向けてきた。いけない、ちゃんと失礼のないようにしなくっちゃ。
「申し遅れました。私は巫女ウルリーケに言い付かって来た、と申します」

だと……?」

 グウェンダル閣下は呟いた。記憶を探るような表情になる。
「まさか、お前が『光の』なのか?」
「そう呼ぶ者もおります」
「兄上? この者を知っているのですか?」
「各地を転々としながら、市民の手助けをしたり、治療を行ったりしていると聞く。『光の』はあだ名だ」
「とは言っても一種の生業のようなものですよ。私にも生活はありますから」
 苦笑しつつ私は告げた。ボランティアじゃないのは本当だ。だって、私お金持ちじゃないし。誰かの家に泊めてもらう事だってある。

 でも私は(なけなしの…)胸を張ってみせた。
「これからは陛下の御元に仕える所存です。お見知りおきを」










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  ★あとがき★
  ……うう。書けなかった。晩餐事件。
  思いがけなく長々と書いてしまったので入りきれませんでした。
  楽しみだったのに。目標期限は守ったけど予告思いっきり破ってるよ。ゆたかはばかです。
  しかも最後の方ユーリやコンラッドを無視してます(殴)

  そんなわけで、前編ということにしました。
  後編はできるだけ早く書きます。今のところ目標は中編にしないことです。
  ゆたか   2004/12/18

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