好きな人と一緒に居たいっていうのは、当然のことでしょ?
【Love Me Tender】
陽だまりの中、二人並んで座っている。彼は何やら難しい本を読んでいる。私は、そんな彼の肩に頭を乗せてぼうっとしている。あたたかい。こういうの、とても好き。
でも、だからこそ不安なこともある。
私はとてもとても静かに溜め息をついた。自分でも注意しなければわからないような、小さな溜め息。
それでも、彼の耳は聞き逃さなかった。
「何か悩みがあるのか?」
コンラートはいつも、的確に私の心中を読み取る。別に誰かから、感情が表に出やすい、なんて言われたことないのに。彼だけ特別。
でも、簡単に打ち明けられるような悩みなら、とっくに言ってるわ。
私は頭を振って歯切れよく笑う。
「全然。ザンネンでした〜♪」
「……そうか?」
「そうなの! 心配しなくていいわ。……あ、用事思い出しちゃった」
ベンチから立ち上がって歩き出す。できるだけ、ゆっくりと、焦りを悟らせないように。隣で本を開いていた彼も、静かにそれを閉じて後に続いた。
血盟城の中庭はいつも綺麗だ。世界中のすべての色を集めたかのような花々で溢れている。その中には、庭番からこっそり教えてもらった、彼の名前と同じ花も咲いていた。歩調はそのままで、横目で一瞬だけ見た。
「ねぇ、どこまでついてくるの?」
「どこまでも」
「まだ本を読んでていいのに」
「用事って何かな?」
言葉に詰まった。その原因を、廊下に入る階段に差し掛かったせいにした。口からでまかせなのに、すぐに答えられるわけがない。
「……えっと、なんだっけ?」
短いステップを単調に上りきってから、ゆっくり問い返した。でも、いつもならすぐの返事がない。不思議に思って振り返ってみると、コンラートは爽やかに笑っていた。
「部屋に戻るんなら、俺も行っていいかな?」
「……」
鮮やかにお見通しだった。そして、自室に戻るだけの用が、そうあるはずがない。
私は口を開く代わりに、大股に進んで行った。拗ねた顔を見られないように。気まずさとやるせなさを、できるだけ感じないように。
ただ、後になって考えてみれば、その態度はそれで心情を暴露しているようなものだった。
コンラートは本当についてきた。
そういえば、今回私に割り当てられた部屋へ彼が入るのは初めてかもしれない。彼はしげしげと室内を観察しながら、後ろ手で扉を閉めた。
「鍵は掛けないでよ!」
「はいはい」
はぁ、もう、なんでもいいや。とりあえず、お茶でも淹れよう。
そう思い立って、さっそく準備をすることにした。ポットとティーカップ、それにお茶の葉。背後にいるはずのコンラートを見ずに口を開く。
「お茶の濃さは、どれくらいがよかったっ……」
最後まで言い切ることはできなかった。後ろから突然、抱きしめられたから。スプーンがはずみで床に落ちて、神経質な音を立てた。
まぁ、彼の行動だと思えば、改めて驚くことじゃないんだけれど。
「も、もうコンラート……」
「。フォン卿。俺は、君の悩みを聞きたいんだけどな」
「だからないってば!」
「ないなら、どうしてさっき場を離れようとしたんだ?」
「それは」
さらに強く腕に力を込められた。けれどその感覚は悔しいくらいに心地いい。
そして私にこれを振り解くだけの堪え性は、無い。
「教えて」
「……」
「君は、俺のことが嫌い?」
「……そんな事を訊くなんて卑怯」
「気にして当然じゃないか。愛しているから」
恥ずかしすぎてもうワケわかんない。耳元で囁かれているから、余計に気がおかしくなりそうだ。
コンラートは本当に卑怯。隠したいことに限って当ててくるし、逃がしてくれないし。でも……一番ひどいのは、私を怒らせてくれないってこと。
私は彼の腕をそっと触って、一つだけ溜め息をついた。
「……ただの我侭よ?」
「どうぞ」
「私、もっともっとあなたと一緒にいたい」
「……俺もだよ」
「でも、私はいつも血盟城にいるわけじゃないし、あなただって黙って旅に出ることもあるし」
「最近はそうでもないよ」
「黙ってはね。どちらにしても、いないじゃないの」
苦笑してたしなめた。最近は、魔王陛下とお忍びに出掛けることが多い。王に嫉妬はしていない。問題は、私も一緒じゃないってところだけ。
「わかってるけどね。私だって、家の領地を治める手伝いをしなくてはいけないし。あなたにもあなたの時間があるし。ずっと傍になんて、最初からできないわ。でも……コンラートが私のことを知りたいのと同じよ。好きな人と一緒に居たいっていうのは、当然のことでしょ?」
「……」
見上げると、コンラートは私の額にキスをした。触れるだけなのに、少し長い間があった。私たちは向き直って、しばらく口付けを交わしあった。
それがどんなに甘くてとろけそうだったか、聞きたいですか。……後悔するかもよ?(私が)
「今、思い出したんだけど」
静かな時の中で、コンラートはぽつりと呟いた。
「? ……なに、コンラート」
「以前地球に行ったときに覚えた曲があるんだ。とても気に入ってて」
「そうなの? 聴かせてよ。聴きたいな」
「……うまく歌えるかな」
コンラートは私の肩越しにゆっくりと歌いだした。
異国ならぬ異世界の言語は、やっぱり私にはわからなかった。
単語の区切りさえわからないまま耳を傾ける。発音は歯切れがいい。語感はこっちの世界と似てるかもしれない。
コンラートは、歌はうまいと思う。
わかるのは、それくらい。
けれど、言葉じゃない、歌に込められた何かは滲んでいる気がした。
とても温かくて切実で優しい気持ちが。
そして妙に気にかかったのは、頻繁に聴こえる、「らぶ」という響き。
たぶんこの歌のテーマだ。そうじゃないなら、時制ね。「〜である」とか「〜だった」とか。
どっちか知りたいと思った。
「――綺麗な曲ね」
「君のためみたいな曲だよ」
「どんな内容なの?」
「教えて欲しい?」
彼は笑いを含んだ声音で問い返してきた。きっと、私が赤面してしまうような困った楽曲なのだろう。でも、私にはそれを拒否する権限は無い。だって、彼はもう話す気満々だものね。
コンラートはもったいつけるように語りだした。……
* * *
心から愛して、本当に愛して
俺の夢はすべて君に満たされている
大切な君へ「愛している」
それは これからもきっと ずっと
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★あとがき★
今までにないくらいのバカップル誕生です。
自称「甘いのは書けないのよドリーマー」ですが、
途中で何かに諦めて、とことん楽しんでみました(笑)
だって森川さんの歌声を聴いてると、どうしてもそっちに考えがいくんだもん!
絶対耳元で囁くように歌ってほしいよ、あれは。
一番最後の詩は、サビ(?)の歌詞を我流に訳したものです。
英語の成績は良くないのですが、たぶん間違ってないと思います……。
もし誤っているときは温かく見守るか、報告してやってください(後者希望!)
この夢はお持ち帰り可です。下の名前だけ消さないでください。
あと、ドリームメーカー2使用なので気をつけてください。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
ゆたか 2006/03/05