【モーニングコール】
「うーむ…」
顎に手を当ててそれっぽく見せ、ユーリは考え込んでいる。
ここは血盟城にあるユーリの自室。今日一日はもう終わりかけだ。夕御飯を食べて風呂に入ってパジャマも着込み、あとはもう寝るだけである。
それなのにユーリは寝ない。
ベッドに腰掛けているものの、なぜか悩んでいるのである。
「どうした、ユーリ」
そんな彼に気づいて、声を掛けた者がいた。
「どぅわっ!? ……なんだ、ヴォルフかよ! 毎度毎度言うけど、俺の部屋で勝手に寝るなよな」
「お前でも悩みなんてあるのか?」
ヴォルフは手慣れた様子で忠告をかわすと(もしくは強制的に無視すると)、ベッドに横たわった姿勢から身を起こしてユーリに向き直った。まるで珍しい物を見つけてわくわくしている子供のようだ。知らずその様子に和みかけたユーリは、はたと動きを止めた。
「失礼なっ! オレにだって悩みくらいあるぞ!!」
「(うるさいぞ…)で? どんな?」
「のことだ!」
言ってしまってから、あ、と呟くユーリ。ヴォルフは訝しげに眉根を寄せた。
「お前の妹がか? どうして……」
「――えーと」
と次の瞬間、唐突に空気の内容が変わった。
「…お前ッ! まさか実の妹に懸想しているのか!? やっぱり尻軽だな!」
「そりゃあだって化粧くらいするだろうけど……ってだから、なんでそこでオレのフットワークが?」
もう見ていられない。
「最近、妙に朝方ののテンションが高い気がするんだよな」
一段落ついた頃、ユーリは言った。
「? そうなのか?」
「ああ。お前だって、最近はに起こされているだろ? でも地球にいるときは、どっちかと言うとオレの方が起こしに行くくらいなんだ」
「それがどうかしたのか?」
「いや……それだけなんだけどさ。なんか気になって」
うんうん唸るユーリを見つめつつ、ヴォルフは思わず溜め息を吐いた。そんな判らない事を気にしてどうするというのだ。
「周りの環境が変わって習慣も変わったってだけじゃないのか? ……まったく、悩んでいると言うから聴いてみたら、何なんだ、それは。お前はいつまでたってもへなちょこだな」
「へなちょこ言うな」
「ほら、もう寝るぞ!」
「でも……」
なかなか頷かないユーリに苛々したヴォルフは、ふとちょっとした悪戯心を出してみることにした。
「――どうしても目が冴えるのなら、ぼくがおやすみの接吻をしてやろうか?」
「おやすみなさい」
たちまち布団の中に潜り込んで寝息をたて始めた自分の婚約者を、複雑な想いで見下ろすヴォルフラムであった。
* * *
「」
聞こえる。
声が、聞こえる。
だれだっけ?
「ってば。起きてる?」
気づけばあたしは笑っている。
嬉しい、と言うよりはむしろ…幸せ、なのかな?
どうしてだろう? ……まぁ、いっか。
だって今はねむ――――
「……。仕方ないな」
(むにゅ)
むにゅ? ふーん、むにゅ。……ん??
「――――――っ!!」
がばっと勢い良く起き上がったあたしを見て、その人はにっこりと笑った。よかっためがさめてくれて、と目が物語っている。
「おはよう、」
「…コンラッド」
脱力しつつジト目で見上げるあたしに、彼はなぜかきょとんとする。嘘でしょ、本当はわかっているでしょ。
「今……また(キス)したよね?///」
「はい」
「はいじゃないッ!」
思わず絶叫する。そしてコンラッドはまた首を傾げる振りだ。とぼけている演技だって判るのは、瞳が笑っているからだ。その茶色の虹彩はまるで銀の星が散っているようで、いつもあたしは惚れ惚れと見てしまう。て、今もまた、……。
――――あぁっ、もう!//////
「朝っぱらから恥ずかしいー!!」
「そうですか?」
「そうですとも!」
血圧上がり易いのよ、朝は。
びしっと人差し指を突きつけると、コンラッドはまた微笑する。む、絶対子供扱いしてる。じゃあ何でき、(キス)はするのよ?
なんかずるい。
「む〜……」
「?」
「…………」
「これからユーリ達も起こしに行くんだ。また一緒に行くかい?」
「…………独りで行けばっ?」
俯いたまま、早口でそう返す。
そんなあたしの様子を見て何やら考え込んでいるようだったコンラッドは、やがてちょっとは反省したのか、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「触れただけの口付けじゃ、足りなかったかな……?」
…いや、反省しとらん! 思わず関西弁ツッコミ。
「もう十分です!////// って、そういう問題じゃなくって!」
「そう?」
やっぱりにこにこと笑うコンラッド。機嫌良いな、このやろう。
そしてあたしはもうダウンだ。もう抵抗する気力もない。と言うか、多分彼に反抗すること自体が無茶なのかもしれない。いや、ほぼそうだ。
「……わかったから、部屋から出て。着替えるから」
「わかったよ」
もうちょっと早く聞き分けが良くなって欲しかったなぁ。
そんな思いが届くはずも無く、コンラッドは部屋から退出した。思わず溜め息を吐いてしまったあたしは、諦めてあらかじめ傍に用意してあった服に手を伸ばす。もちろん、ゆーちゃんと同じく制服だ。
「…やっぱ、これ着たら気が引き締まるよなー」
手早く袖を通して髪も整えると、なんとなく気分が変わる。気がする。
とか考えていた矢先。
「もう終わりましたか?」
「ひゃっ! ……勝手に開けないでよ!?」
突然扉を開けたコンラッドにびっくりして、あたしは声を上げた。ちなみこんなのは今日が初めてだ。な、なんか、嫌な予感が……。
案の定、コンラッドは必殺スマイルで、『今日の』キメ台詞を告げた。
「――そんなの、俺と居れば直に気にならなくなりますよ♪」
…………………………………………………………………………………………………それって。
「?」
呼び止めようとするコンラッドの前を素通りして、あたしは足早に廊下に出た。
「……もー知らない///」
捨て台詞を呟くので精一杯だ。できるだけ、真っ赤な顔を隠していたつもりだったけれど。
これは後で聞いたことだけれど、そのときコンラッドは、可笑しそうに目を細めて、必死に笑い声を抑えていたそうだ……。
* * *
バーン!(←扉を開く音)
「ゆーちゃん、ヴォルフ、朝よ起きて――――っ!」
「「 うわぁっ 」」
開口一番のの掛け声で、少年二人は飛び起きた。
「もう、ゆーちゃんもヴォルフも、こんないー天気なんだからジョギングでも行ってきたら?」
「え……、そりゃ行くけど……」
「はい、いってらっしゃい!」
畳み掛けるように言い切ると、まだ寝ぼけ眼なユーリとヴォルフラムから背を向け、はまた駆け出して行ってしまう。見事なまでの嵐っぷりだ。
そんな妹を見送りつつ、ユーリはヴォルフにぼんやりと言った。
「な、テンション高いだろ?」
「いや、いつも通りじゃないか?」
そうかなあ? と首を捻っていたユーリはふと、コンラッドに声を掛けた。
「どうしたんだよコンラッド。なんか目がとっても優しいぞ?」
「そうでしょうか?」
扉の横で一部始終を見ていたコンラッドは、はぐらかすようにそう言い、そしてこう続けた。
「――おはようございます」
ユーリは知らない。
自分を起こしに行く妹が誰に起こされ、どんな方法で目覚めているのかを。
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★あとがき★
これ、実はマジで朝起きたときに思い付いたネタだったりします。
今、ベッド傍の壁に雑誌の付録だったまるマのポスターを貼ってるんですよね♪
寝ッ転がりながらそれを見てて「あー好きなキャラに起こして貰えたら目覚めが良いのになー」
とか心の中でほざいた後、ピンと閃いたのです。
――じゃー起こしてもらえばいーじゃん!(爆)
…実話ですホントに。
思いついてしまえば居ても立ってもいられなくて、学校で瞬く間に構想を立てちゃいましたトサ。
ちゃんと甘い話に仕上がったかどうかは自信がありませんが、楽しんで頂けたなら幸いです。
様、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます♪
それでは、また逢えることを願って。
ゆたか 2004/11/18