グウェンの私室にて。
 プレゼントだ、と言われて手にしたものは、モノクロが小さなピンクの帽子を被った編み物だった。
「これは……」
「くましゃんだ」
 確か、陛下が『パンダ』とか叫んでいた生き物だ。



   【ちょっと特別なプレゼント】





「くれるの? この動物は」
「くましゃんだ」
「…くましゃんは、初めてでしょう? コレクションになるのに」

「……これしか適当なモデルがなかったんだ。作りたかったわけじゃない」
 それを耳にして思い当たる。以前これが原因で陛下とラブラブ(?)逃避行になったんだっけ。じゃー作りたかったわけはないか。

「ありがと」
 グウェンは既にお仕事態勢で、机の書類から目を離しもしなかったけど、なんとなく雰囲気だけで頷いたのがわかった。…ほんと、この人の幼馴染って大変だなっ。

 ぬいぐるみは中に手を入れて遊べるようになっていた。親指と小指がそれぞれ手の部分で、残りの三本が頭の部分だ。試しに実際に入れてみたら、パクパクと口が開いたり閉まったりした。
「へぇ、可愛い〜♪」

 しばらくの間そうやって遊んでいたら、ふとぬいぐるみ越しにグウェンダルと目が合った。
 少しどきりとする。

「な、何よ/// 仕事やってたんじゃないの?」
「……別に」
「べつにって…」
 動揺してしまっただけに、なんだかグウェンの無愛想さにむっとする。
 い、イベントを期待しちゃったじゃんか。どうしてくれるこのやろう!?(←逆恨み)
 絶対お返ししてやる!

 ふてくされながら、しばらくの間くましゃんと戯れてみる。
 ぱくぱっくん、ぱっくん。
 なーに話してるのかなーぁ?

 そのとき、ちょっといい考えがキラリと光った。


 ――ぱっくん。
「んむ?」
「? ……どうした、
 ――ぱくぱく、ぱくぱく、ぱく。
「ほほう。なるほど」
「…勝手にしろ」
 くましゃんと秘密会議を始めたあたしに、グウェンダルは呆れたようだった。

 その一瞬を狙う。

「ちゅ」
「っ!?」
 右手を素早く突き出す。ぬいぐるみの口とグウェンの頬が一瞬だけ重なった。
 へへん、ざまーみろ。

!?」
「見ての通りよ。うばっちゃった〜♪」
 悪戯っ気まんまんにウィンクしながら、ぬいぐるみをヒラヒラさせる。適当に節をつけて歌までサービスした。
「さっきのおかえしだよ〜ん」


「……まったく」
 グウェンは溜め息混じりに呟くと、立ち上がった。
 そしてあたしの前に来ると、しげしげと眺めてきた。

「…な、なによ?」
「……」
「あっのね〜、本当に怒らないでよ? こんなの」
 ただの冗談でしょ、と言うつもりだった。

 口を塞がれた。

「…………っ」
「どうせお返しをするなら、これくらいはすることだな」
 一呼吸後、顔を離したグウェンダルは淡々と述べた。何も言い返せない。
「なぜ何も言わない。わからないか? ……そうか、」
 固まったままのあたしに何を思ったかは知らないけど、グウェンはふと目をすがめた。一見睨んでいるようにも見えるその瞳を、私は知っている。そう、ものすごく珍しいことだけど。
 面白がっている。
「もっと深くやった方が良かったか?」

「ばか――――っ!!」

 思いっきり叫んであたしは駆け出した。
 ぬいぐるみをしっかり抱きしめて。
 ホントは殴りたいところだけど、平手打ちはナシだ、だってプロポーズしたいわけじゃない。



       *       *       *



 部屋を出ていくを見送ると、グウェンダルはしばしそこに立ちすくんだ。
 何やら物憂げである。考え込むような、ただぼうっとしたような、そんな曖昧な表情をしていた。
「――ふん」
 ただ一言、彼はそうこぼした。それが何を示すのかは彼にしか解らない。

 解るのは一つだけ。ふと彼が俯いて一瞬だけ口元に手を当てたことだけである。

 やがて彼はまた席に戻ると、仕事の続きをやり始めた。
 少し手元が鈍かった。


 一方、廊下を歩いていたウェラー卿コンラートは、進行方向に知り合いを見つけて声を掛けた。
、そんなところで何をしているんだ」
 それにピクリと反応したは、ぎこちなく振り向いた。
「え……なんもないよ」
「? …そうか。ん、それは……」
 コンラートは彼女が手に持っているものを見つけた。途端なぜかハイテンションになる
「あ、これねー! さっきグウェンに貰ったのよ。作ったのはいいけど要らないからって! もう、困るよね、あっはっは!」
「……」
「あ、そうだ、これから用事があるんだった。じゃね、コンラート!」

 いかにも急いでいる風に小走りに去るを黙って見送ったコンラートは、しばらく首を捻っていた。だが、今自分が何処にいるかを意識した途端、理解した。
 くすりと笑って呟く。
「なるほど、道理で顔が紅いわけだ」
 また歩き出す。自分の兄の部屋の前を横切って。
「からかうのは次回にしとこうか。これ以上仕事が遅れるのはまずいしね」


 ――この、目と鼻の先の距離での出来事を、彼は知らない。










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  ★あとがき★
  これ、今はもう観れない○茶パンダのCMが原点となっております。松嶋菜々子好きです。
  だって「うばっちゃった〜♪」がすごくやりたかったんです。
  ちょうどグウェンってぬいぐるみ好きだし。もうこれはやるしかないと神様からの啓示が!(嘘)
  そんなわけで書いちゃいました。このCM嫌いな人、ごめんなさい。

  ちなみに妙にコンラッドが登場したのは偏った愛の為ではありません(笑)。
  『今日マ!』のキャラでは一番適役かな、と思ったからです。
  あ、ギュンターでも良かったのかな? やっぱり偏ったのだろーか…。

  うー背景のクマが可愛い!(失神そして復活) これ見つけたとき運命を感じました。
  素材サイト『karinko』からお借りしました。リンクのページでも紹介してます。

  それにしても、この話ってクリスマスネタとしていけると思いません?
  もう一日過ぎちゃったからタイミングは微妙に悪いんですが、書き終わった後そう気づきました。
  タイトルの『プレゼント』が「どれ」を指すのか、それはご想像にお任せします♪

  ここまで読んでくださってありがとうございました。
  ゆたか   2004/12/26

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